
東野圭吾氏のジャンルの広さを感じさせる、感動小説。
泣ける!!
最後の5分の1程をあるファミレスで珈琲を飲みながら読んでいましたが。途中から涙が溢れて来ました。下を向いて、指で目を押さえて隠しましたが、周りには気づかれたかもしれません。
寝不足になりました。
手紙。書きたくなります。
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剛志には親がいなかった。彼が高校生の時に亡くした。
それからは、剛志が弟の分も含め、生活する上で必要な金銭を全て稼がなければならなかった。
「弟を大学に行かせてやりたい」
それが死んだ母の願いでもあり、自分の願いでもあった。
しかしなんの取り柄もない剛志には、それ程の金を得る手段が見つからなかった。
行き着いたのは。。。かつて引越しのバイトの時に訪れたある老婦人の家。
彼は裏から侵入し、仏壇から見つけた100万円もの札束をポケットにしまいこんだ。
誰もいない事を確認して侵入した筈だったが、突然老婦人が隣の部屋から顔を出した。剛志は逃亡を試みたが持病の腰痛で素早く動く事が出来なかった。
通報しようとする老婦人。焦った剛志は持っていたドライバーで刺し殺してしまう。
その場からすぐさま立ち去った剛志。しかし、気づいていなかった。大量の返り血を浴びていた事に。
すぐに彼は警察に捕まってしまう。
そして始まる裁判。そこで言い渡されたのは15年間の懲役であった。
直貴の元には毎月の様に手紙が送られてきた。
住所は拘置所。差出人は兄。
そこには兄の自責の言葉。そして、殺した老婦人宅に詫びに行って欲しいという願いが書かれていた。
兄は自分の学費を稼ぐ為に罪を犯してしまった。やってしまった事は赦される事ではないが、直貴は兄に感謝の気持ちも持っていた。そこまで自分の事を思っていてくれたのだ、と。
しかし。。
現実は甘くなかった。
友人達はけしてあからさまに避けようとはしなかったが、自分と深く関わろうとするのを避けていた。
周りの目も気になった。
大学は諦め働くことにした直貴には、社会に出るとさらに「犯罪者の弟」という肩書きが予想以上にずしりと重く肩にのしかかってきた。
まともな職場にはつけない。
付き合うようになった資産家の娘は理解しようと努めてくれたが、親がそれを許さなかった。
兄の事を隠してようやくありつけた仕事も、その兄の事が発覚するや不当な配置換え。
アパートも追い出される。
決まりで月に1通しか書けないんだ。
そう言って、律儀に毎月送られてくる兄からの手紙が次第に鬱陶しくなって来た。
ようやく○○の仕事にも慣れてきたよ。
桜が咲き始めてきたな。
風邪はひいてないか?
仕事はどうなんだ?
たまには、返事くれよな。いや、忙しい事はわかってるから、無理にとは言わないけど、時間が出来た時、たまには、な。俺達服役中の人間にとって家族や恋人からの手紙ほど嬉しいものはないんだ。
何を暢気な事を。
込み上げて来る怒り。
最初に勤めた会社で知り合った女。ずっとずっと自分の事を気にして、理解してくれていた。疎遠な時期もあったし、最初は恋心はなく鬱陶しくもあったが、次第に彼女の優しさに癒されている自分に気づいた直貴は、彼女と結婚する事にした。兄の事も含め、全部理解してくれる彼女。
自分と妻だけなら我慢は出来た。殺人者の家族として我慢はしなければならないと思ってもいた。
しかし・・・。
娘が不当な扱いを受ける事には納得がいかなかった。自分が殺人者の弟だとわかるや、「あの娘と仲良くしちゃだめ」と、娘の同級生に諭す親達。
これが決め手だった。
いつからか無視を決め込む事にしていただけだった兄からの手紙。直貴は、何年ぶりかに返事を返す事にした。
内容は・・・。絶縁宣言。
自分には兄など存在しなかったのだ。今までは全て受け入れえて生きて行こうと思っていたけれど。この日を境に、自分の中から、そして社会から、兄の存在は消滅した。
自分を知る者がいない土地に引っ越し、兄の事は書類等全てに記述することは辞めた。そうして、ようやく娘に対する不当な不幸もなくなり、全てが順調に回り始めてきたのだった。
兄に引越し先は告げていない。
兄からの手紙は届かなくなった。
ある時、自転車に乗っていた妻と娘がひったくりに襲われた。自転車から落ちた娘は頭を強く打ってしまった。幸い機能に障害は出なかったが、大切な女の顔に傷が残ってしまった。
犯人はすぐに捕まった。
そして。数日後、犯人の親がすぐに謝罪に訪れてきた。
直貴はむろん怒りを感じていた。しかし、逆の思いもあった。
「この親は冷静だし、偉いな。罪を犯した者や自分の事で頭がいっぱいになってしまうのにすぐに被害者の元を訪れた。」
かつて、兄が殺人を犯した時、直貴はすぐには被害者の家に行く事を思い浮かびすらしなかった。数ヶ月たってそれを思いつき、老婦人の家を訪なったが。。。玄関から出てきた身内と思われる人間を見た途端尻込みしてしまい、通行人を装ってしまった。
結局直貴はその家に謝罪に行く機会も勇気も逸してしまっていた。
あれから何年経っただろう。
直貴は剛志が殺人を犯した家を訪れた。出迎えてくれたのは息子と思われる男性だった。
男は様々な思いを告げた。その内容の端々から、きっとこういう形を望んでいなかったのだろうと感じた。
自分もそうだった。あの引ったくり犯の親が訪れてきた時、偉いなという思いは抱いたのだが、やはり憎さがあった。犯人の身内が被害者の家族に謝った所でなんの慰めにもならないのだ、と。
男は、暫くすると、ある紙袋を持ってきた。その中には。。。ぎっしりと詰まった手紙。差出人は・・・。剛志だった。兄はこの家にも毎月手紙を送り続けていたのだ。
「これが最後の彼からの手紙だ。」
ある時を境に、剛志はこの家に手紙を送ることを辞めたようだった。その手紙は、直貴が兄に絶縁宣言した手紙の直後だった。
兄は。。兄は兄なりに、贖罪の意味で、被害者の家や自分に手紙を送り続けていた。しかし、自分からの絶縁の手紙を読み、残された者は犯人の事など邪魔なだけで、本人は誠意のつもりでも、相手は鬱陶しいと感じるだけなのだと悟ったようだった。
弟に絶縁宣言されたこと。それがショックだった事。自分の存在が長年弟を苦しめてきたのだという事、そしてそれを最後の手紙をもらうまで気づいていなかった自分の阿呆さ加減に対する自己嫌悪。
手紙の最後はこう締めくくられていた。
これを最後にいたします。どうも申し訳ありませんでした。ご健康とご多幸をお祈り申し上げます。
緒方忠夫様 武島剛志
追伸 弟にも詫びの手紙を書きたいのですが、もはや読んでもらう術がありません。
かつて共にプロデビューを目指して音楽をやっていった友人達。
デビューの話が出た時、事務所から言われたのは自分をメンバーからはずすことだった。
他のメンバーは自分を外す事を主張したが、たった一人、寺尾だけは「そんなの関係ない。納得できない」と言ってくれた。
自分を外してデビューしたそのグループは結局大して売れず、ほそぼぞと活動していた。
そして今、解散の危機に直面していた。
寺尾が自分の下を訪れた。
「俺、今、活動の幅を広げようと思って、刑務所なんかで歌ったりしてるんだ。完全ボランティアで。」
直貴は寺尾に、ある刑務所での慰問ライブに一緒に参加させて欲しい事を依頼した。
当日。
大勢の囚人達の前に立った直貴。
直貴は彼らを見回したが、誰が誰か分からない。みな、同じ服に、坊主頭だった。
寺尾がピアノの伴奏を始めた。ジョン・レノンのイマジン。
ふいに目に入った。客席の一点。一人の男。後方の向かって右端。
彼は項を垂れ、そして・・・。胸の前で合掌していた。詫びる様に。祈る様に。そして細かく震えていた。
兄貴。今日が、俺と兄貴が会う、最後の機会だ。
兄貴・・・。どうして俺達は生まれ来たんだろうな。
寺尾はイントロの同じ部分を引き続けていた。
「おい、武島。」
声が出なかった。
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罪を犯した人間とその家族。その苦しみ。
贖罪の手段とその意味。
様々な事を考えさせられます。
直貴程ではないですが、僕も境遇でだぶる部分(犯罪者はいませんよ、身内に。念の為(笑))があるので、非常に共感もし、考えさせられました。
ファミレスで読み終え、涙をぬぐった後、中空の一点を見つめ、しばらくぼーーっと自分のこれまでの人生や道程を思い返していました。
容疑者Xの献身とは違う感情。
「容疑者〜」ほど号泣はしなかったけれど、何か左胸がずきーーーっと痛く、重く感じました。
間違いなく、東野圭吾小説の中で、最も感情移入し、そして最も一気に読み進めた作品です。
最後の一文。
“どうしても出ない−”
ではなく、
“どうしても出なかった−”
にして欲しかった。
#長くなりました。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございました。


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